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福岡高等裁判所 昭和39年(行ケ)1号 判決 1964年5月28日

原告 福岡高等検察庁検察官

被告 古賀友太郎

主文

昭和三八年四月三十日施行の武雄市議会選挙における被告の当選は無効。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、被告は昭和三十八年四月三十日施行された武雄市議会議員選挙に立候補して当選し、同年五月一日附で同市選挙管理委員会から当選証書を付与され、同日所定の告示がなされ、現に同市議会議員である。ところで右選挙において訴外中村初雄は同年四月二十日被告の選任届出によりその出納責任者となつたが、公職選挙法第二二一条第三項第三号、第一項第五号及び同法第二二一条第三項第三号、第一項第一号の罪を犯し、他の同法違反の罪と併せ審理を受け、昭和三十八年十二月十三日佐賀地方裁判所において懲役五月刑執行猶予五年間刑執行猶予の判決言渡を受け、右判決は同三十九年一月十七日確定(同三十八年十二月二十七日弁護人控訴申立て、同三十九年一月十七日被告人から控訴取下げ)した。よつて同法第二五一条の二第一項第二号により被告の右当選は無効であるから同法第二一一条第一項に基き本訴請求に及ぶと陳述し、被告の抗弁事実を否認した。

(証拠省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、被告が原告主張の選挙において当選したこと、訴外中村初雄が昭和三十八年四月二十日被告の選任届出によりその出納責任者となつたことは認めるが、その余の原告主張事実は争う、右訴外人は選挙運動者たる訴外森松次郎に金二千四百円、訴外渡辺拓市に金千五百円、訴外渡辺辰馬に金二千円を交付したことはあるが、それは初雄が出納責任者届出前である昭和三十八年四月十七、八日の両日被告の地盤である上西山部落外から投票を得るため選挙運動実費(日当、弁当代、車馬賃)の前渡をしたのであつて、原告主張のような届出後の買収金の交付又は供与ではない。なお、かりに原告主張事実が認められるとしても、公職選挙法第二五一条の二、第二一一条は憲法に違反する法律である、すなわち(一)被告の当選は憲法第一五条、第九三条、公職選挙法九五条等によつて得た公法上の地位であり、専ら主権者たる有権者によつて与えられたものであり、従つてこの有権者の意思を無視し、被告自身に関係のない第三者である出納責任者の行為を理由に右地位を奪うことは地域住民の参政権行使の結果を侵するものである、(二)昭和二十九年十二月法律第二〇七号による公職選挙法の改正以前においては選挙人又は候補者が当選人を被告として出訴することができ、当選人はこれに対し出納責任者の選任監督について免責事由の立証が許されていた、これによれば出訴権者は直接の利害関係者であり、また出訴について自由裁量の余地があつたから、あえて憲法違反というほどのことはなかつたが、現行法は出訴権者を検察官とし、検察官に出訴の義務を命じている、(三)公職選挙法は第二五一条の二において当選の当然無効を宣言しながら第二二一条争訟の規定では検察官に無効認定の裁量を許している、これはおそらく当然無効によつて争訟の道を絶つことは住民の参政権侵害が正面に出てくることを恐れて、検察官の出訴により裁判所の判断を仰ぐことにしたのであろう。なるほど刑事裁判と民事裁判の観点は自ら違うかもしれないが、それでは第二五一条の二の無効宣言は単なる威嚇にすぎない。要するに第二五一条の二と第二一一条は両立を許さない矛盾をもつた誤つた立法であり、それがひいては住民の参政権を侵し住民が正当に得た地位を奪うことになると陳述した。

(証拠省略)

理由

被告が原告主張の市議会議員選挙に立候補して当選したこと、訴外中村初雄が昭和三十八年四月二十日被告の選任届出によりその出納責任者となつたことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一、二号証によれば右訴外人が原告主張の犯罪事実について刑に処せられ、原告主張日時判決が確定したことを認めることができる。そして成立に争のない甲第八ないし第十四号証、前記各証人の証言の各一部を綜合すれば、訴外中村初雄が原告主張の罪を犯した事実(甲第一号証刑事判決の理由第二)が認められ、右認定に反し被告の抗弁に副う右各証人の証言部分は措信せず、他にこれを左右しうる証拠はない。そうすれば被告の当選は公職選挙法第二五一条の二第一項第二号により無効であるといわねばならない。

被告は公職選挙法第二五一条の二、第二一一条は憲法に違反すると主張するけれども、右法条は選挙が選挙人の自由に表明した意思によつて公明かつ適正に行われることを確保せんとするものであり住民の参政権を侵すものではなく(昭和三十七年三月十四日最高裁判所大法廷判決参照)従つて憲法違反ではない。このことは被告主張の公職選挙法改正後の当該規定についても同様であるから被告の抗弁は失当である。(なお同法第二五一条の二による当選人の当選無効は同法第二一一条所定の当選無効訴訟における判決によりこれを確定させる法意であつて右各法条の間に所論の矛盾はない。)

よつて被告の当選は無効であるから本訴請求を認容し、民事訴訟法第八十九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 中村平四郎 丹生義孝 中池利男)

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